Happy Birthday

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「まーったく、あいつら一体何やってんのかしら」
破廉恥ぃー。とぼやけば、丸椅子に腰かけて洗濯物を畳んでいたシェラが、なぜか今さっき丁寧にたたんだシャツをばさっと広げてこっちを向いた。
「・・・リリー?今、何て?」
「えっ?あ、ええと、はれんち?」

うわびっくりしたー。
そんなに酷い言葉遣いしたつもりはないんだけど、神父様があまりにもびっくりした顔のまま固まってしまったものだから、逆にこっちが驚いてしまう。
「気にしないで下さい神父様。
変態とアホが絡んでただけですから」
努めて平然と、よくある話をする口調で話を再開する。神父様のほうは見ない。見ない見ない。
あ、このズボン、布あてた部分がほどけてる。縫い直さなきゃ。
「あの、もしかして」
「ゼフォンが、アリエルを襲ってただけです」
まー、遊びかふざけたかどっちかでしょうけどー。と、ぼろくなったスカート一枚を机の上に放り投げてリリーが言ったことなど、シェラは全く聞いていなかった。

「まー良いんじゃないですか?
これで神父様が襲われることが無くな・・・りはしないけど、きっと減りますもん。万事丸く収まったってとこですって。
それにほら、神父様だっていっつも嫌がってるし。」
「それは、そうですが」
小さく呟いた声が引っかかる。
あれ?結構がさつな言葉を使ったのに、神父様が怒らない?
振り返ったリルの目線の先で、神父様がくたびれて生活感のあふれる布地を握ったまま、混乱したまなざしで部屋の隅とにらめっこしている。
「ちょ、っと神父様、しっかりしてっ!」
目の前で旗のようにぶんぶんハンカチを振って、神父様は漸く気づいてくれた。その瞳が、なんだか迷子みたいに見えるのは、気のせい?
「しんぷ、さま?」
「これ、置いてこなくちゃいけませんね」
思わずといったかんじで呼べば、山のように畳まれた衣類を両腕で抱えて、いつもと変わらない笑顔で立ち上がった。

ああ、これなら大丈夫そう。両手がふさがっている神父様のために扉を開けると、

「あ、」

「おや」

通りすがりのゼフォンがいた。
偶然かどうかは別として。

「良かった。丁度話したいことがありまして」
「・・・いいんじゃないでしょうか」
「はい?」
全然良いことなんか無いような硬い顔で告げ、両腕の荷物を押し付けて、シェラはすたすたとゼフォンの前を通り過ぎた。
憂いに伏せられた睫毛の下に見え隠れする瞳も美しいけれど、何とも嫌な雰囲気が漂う。笑顔を偽りきれない口元も、不安げに乱れた呼吸も。

まるで、
自分だけの殻に閉じこもろうとして、
拒絶の気配をあたり一面にまき散らして。
子供たちがいる分相当抑えられてはいるけれど、
・・・あの時によく似た気配だ。

そう思いながらも、両手いっぱいに押し付けられた洗濯物のせいで逃げるシェラの手をつかむことも出来ず、ゼフォンは眉をしかめた。
「どうしたんです?あれ」
「・・・あたしの知ったこっちゃないわよ」
大方、あんたが悪いんでしょ。



体が覚えているルートで自分の部屋へたどりついた後、ぱたんと閉まったドアを背に立ち尽くしてしまった。
(からん、で・・・?)
頭の中で妙な言葉がくるくると回って嗤う。
その単語を使う状況って、まさか。
その言葉に、意識がふっと現実から逃げていってしまうような感覚を振り払うように頭を振った。

だから、だからどうってこと、ないじゃないですか。





「神父様、今日は何の日?」
夕食の時間を告げに、迎えに来たのはリリーだった。

「えっと、あれ?」
もしかして、と思うけれど、まだ頭がしっかり動いていないみたい。

「・・・本気で忘れていたようですね」
いつもより少しだけ距離を置いて、呆れたような言葉が飛んでくる。

「何?ゼフォン知ってるの?」
ああ、彼はまだ知らなかったんだっけ。
今日は僕の、



“誕生日”





リリーの手にぐいぐいと引っ張られて着いた食堂の、その変わりように驚いてしまった。秋も終りだというのに花瓶には花が飾られて、子供たちの前には肉と野菜が温かな湯気を立てて並ぶ。大きなボウルに入ったスープのそばにはパンがてんこ盛りになっているし、切り分けられたチーズからは美味しそうな香りがする。
いつもの食卓よりも、ずっとずっと豪華な様子をしていた。

大きく息を吸ったリリーが大音声で呼びかける。
「ほら、みんなー!主役が着いたら何て言うんだっけ?」
せぇの、と整えて、子供たちは楽しそうに言った。
「神父様おたんじょうびおめでとー!」

「はい!ケーキ、入場ー!」
キッチン直通の扉が勢いよく開いて、両手に美味しそうな香りを漂わせるケーキをのっけたアリエルが突っ込んできた。
右手にチーズケーキ。左手にフルーツのタルト。
テーブルに2枚置かれた大きな白い皿が一瞬にしてカラフルになる。
一瞬びっくりしたシェラが、ゼフォンの方にちらりと目を向ける。
「これ、あなたが?」
「ええ、まぁ。ところでアリエル、それは全然別の時に言うセリフですよ」
「まーいいじゃん。俺こういうことすんの初めてだし」
ケーキの登場で、もはやお祭り騒ぎに発展しつつある室内を見回し、シェラがくすりと笑った。
「そうですよ。楽しめば良いじゃないですか」
「あー!リル、すごいよ、肉だ肉ー!」
「ちょーっと待ちなさい、あんたは後!子供たちが先!」

普段は少ししか食べられない肉を沢山つかった料理はもちろん、主にゼフォンが作り、アリエルが手伝ったと主張するケーキは、子供たちにも、リリーにも大好評だった。
「リリー、食べるの早くね?」
「うー、素直に美味しいわ。おかわり」
「レディが手でタルトにかぶりつかないで下さい。ついでに、太りますよ」
「い、いいじゃない。誉めてるんだから謙遜とか何とかしなさいよ」
「貴女に言われても、ねぇ?」
皮肉な笑みを口の端に刻みつつも、ゼフォンは2つ目をリリーの皿に乗せてやっていた。

ああ、なんだか面白いな。
会えば必ず喧嘩する二人が、今だけは少し歩み寄ってくれたみたい。
笑って見ていると、ゼフォンが料理の食べ終わった皿を取り上げる。
「ほら、貴方もお食べなさい」
そっけなく乗せられた2種類のデザートは、いつもよりほんの少し大きめに切り分けられていた。
「ありがたく、いただきます」
両手で皿を受け取れば、温かなダークブルーの瞳が優しく笑った。
この上なく、大切な何かを見守るまなざし。
“彼”はいつも、この温かさに包まれてたんだ。
きっと、それはとても、幸せな日々だった。
“彼”にも、ゼフォンにも。

ふと、裾をひっぱられる感覚に振り返る。
「しんぷさま、これあげるのー!」
「おめでとうの気持ちなの!」
いくつもの祝福の言葉と共にプレゼントが渡された。
なんと、今日買ってきた服以外にも雑貨やら小物やら、ちょこっとしたものが添えられている。
「これ、どうやって」
「皆で内職したり、手伝い行ったりしてたんだ」
得意げにはにかむ少年達の手に、重いものを持った痕。
「神父様にプレゼントを買ってあげようって」
先ごろ9歳になったばかりの女の子は、指先を隠すようにスカートを握った。
子供たちに囲まれて、見つめるプレゼントが、手の中で確かな重みを持つ。
「・・・・・・頑張ってくれたんだね」
その一言を出すだけなのに、ひどく時間がかかってしまうのがもどかしい。子供たちを手招きで集めて、片っぱしから抱きしめて回る。
「みんな、ありがとう」
もし、神様が僕を祝福して下さるのなら、この子たちの幸せをこそ祈りたい。
言葉にならない何かと一緒に、抱きしめた。


to be continue...

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