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神父様の部屋の、扉の前。
「痛みはありませんか?」
そして続く、心地よさげなかすかな吐息を聞いた。
洗濯物を干し終えて報告にきたリリーの足がぴたりと止まる。
まさか、まさかまさか。
あいつが来ているのは知ってたけど、神父様に会いに行ったのも知ってるけど、
まさか。こんな、昼から。
今まで、どれほど周りに人がいなくても、神父様が孤児院であいつに応じるコトなんて無かったのに。
それにしても、つい呼吸を殺して扉に耳を押し当てる、この野次馬根性はどこで拾ってきたのだったか。
厚くもない扉の向こうに聞き耳を立て、
「平気。ゼフ、・・・・・・もう少し下」
早速聞こえてしまった言葉に絶句する。
えっと・・・・・・・神父様が、誘ってる?
「素直で宜しい。・・・ああもう、こんなに固くなって」
「仕方、無いでしょう」
さらさらと心地よい衣擦れに神父様の綺麗な、少し困ったような声が混じる。
どうしよう。
扉を蹴破って侵入・・・
してどうするの!見えちゃうでしょ!
いえ、でも神父様が、
「痛っ」
「神父様っ!!!」
神父様の危機には代えられない。
覚悟なんか出来てないけど。
壁を引きちぎる勢いで開いたドアから、リリーが駆け込んでこようとして、一歩目で止まった。
「おや?リリーローズ嬢、血相変えてどうしたんです?」
神父様の身体に置いた手を離そうともせず、目線だけをこちらに向けてくる。
その手の下で、神父様がうつ伏せに・・・・・・え?
「ああリル、お疲れ様です」
「・・・えっとー、その、あ、あれ?」
時折、小さくうーとか、いたたたと呟く神父様の説明によれば、
あいつは、東洋流のマッサージ、シアツとかいう事をしていた、らしい。ベッドに伏せた顔からは表情はわからなかったけれど、
別に、そーゆーコトをされていたわけではなくて、
「それで?」
一見怪訝そうな声に目を上げる。
見えてない神父様には全く分からない、人を馬鹿にした笑み。そして、
「一体、何と間違えられたんです?」
トドメの一言で顔に火がつく。
「まっ、紛らわしいのよ!!」
娘は、耳まで真っ赤になりながら一喝すると、床板を踏み抜く勢いで逃げていった。
「はい、おしまい」
「やれやれ・・・だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
神父が腰に手を置いてベッドに身体を起こすと、黒髪の男が乱れた髪を一筋すくう。
「感想のひとつぐらい、いただけませんか?」
「・・・・・・気持ち良かった」
なぜだか顔を紅くして答える神父に悪戯っぽく微笑むと、男は耳元に唇を寄せる。
“素直でよろしい”と、
体中をくすぐる低い囁きに、揺れる薄藍の瞳をそらす。
身体は楽になったけれど・・・今度は立てる気がしない。
どうしようか、と、呼吸がため息になった。
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