-Let's bathtime!!-
「・・・これ、あんたが作ったの?」
「お気に召さなければ使わなくて宜しいんですよ。ミス・リリーローズ」
答えた長身の男は腕を組み右下にしれっと視線をよこし、
「馬ッ鹿じゃないの、こんなでかいの2人一緒に入れるわよ」
腕組みをした仁王立ちの少女が口を曲げる。
「リル、折角作っていただいたのですから、ね?」
そして後ろからたしなめる神父は何故か頬を赤くする。
だいたいいつもの光景だが、彼らの目の前にあるのは、今日初めて孤児院に持ち込まれた大きな道具だった。
子供なら4人、大人でも2人は余裕で入れようかというサイズの大きな大きな楕円形をした
「何これ、全身浴用?・・・っていうか葡萄酒作る樽みたい」
のぞきこんだリルがびっくりするほどの、とにかく大きな風呂桶だった。
「使い方は、実際使ってみればわかりますよ」
作った当人がそう言うので、その日の夕方を待つことになった。
今日の水くみ当番を決め井戸から水を汲み、ゼフォンが壁ごしのテラスにある大釜で湯を焚き、釜から伸びたパイプを伝って湯を風呂桶に流し込む。簡単だが、子供たちが安全に使えるよう踏み台や火傷よけがついているのが特徴だ。
桶に半分も湯が溜まると、やがてわいわい賑やかなバスタイムが始まった。
「しんぷさまー、これ何ー?」
「これは石鹸。ぶくぶく泡立てて使うんですよ」
「いーい?齧ったりなめたりしちゃ駄目だからねっ・・・ってこらヒウェル!その手で目こすらないの!!」
ひょっとして、スラム育ちの子供たちにとって初めてのお湯を使った入浴かもしれない。
みんなぴかぴかの、良い笑顔をしていた。
その夜の事だ。
ごそごそと寝る準備をしていた赤毛の娘が、はたとその手を止める。
リルに、と神父様が渡してくれた石鹸。置き忘れたと気付いた瞬間、あたりをささっと確認したリリーローズは部屋のドアへ向かっていた。
ネグリジェに着替えた頃に気付くなんて、ついてないなと思うけれどそこは気にしない。どうせこんな遅い時間にくる客はいないはずだから。
と、何も考えずに暗い廊下を歩いて行ったのだが、
ざぱぁっ、と水音が聞こえた。
(あ、そか。神父様後から入るって言ってたっけ)
(脱衣籠はついたてのこっち側だし、大丈夫かな)
子供たちを起こさないよう小さくノックしてドアを開けようとしたその時。
「そういえば」
(・・・なんであいつの声がするのよ!?)
聞こえてきたのはリリーローズが大の苦手とする、ゼフォンの声だった。
「あの時、帰り際に何かしていった気がするのですが」
「えっ、と・・・気のせいではありませんか?」
部屋の中、シェラの体調管理を名目に居残ったゼフォンがドアの方へちらりと目線を流す。
「そうでしょうかねぇ・・・でも感触が残っていたし」
「寝ぼけていたんだと思いますよ」
「だとしたら微かに濡れていたのは一体・・・あ、そうだ」
「はい!?な、ななんですか?」
「何をそんなに驚いているんです、そちらを向いたくらいで」
「あなたと違って神経太くないですから」
「経年劣化か知りませんが、昔のあなたはもっと」
「かっ、関係ない事を蒸し返さないで下さい!また僕が湯当りしたら承知しませんよ」
「一理ありますね。では、早速。先日の朝あったコトを検証したいので、
こちらに祝福をいただけますか?」
「しゅくふ、・・・っ僕にキスしろって言ってるんですか!?」
「おや、いつもしているでしょう?」
何故嫌がられるんです?とかにこにこして聞いてくるからたちが悪い。
「あの、手、濡れてますけど」
「感覚でわかりますから。それとも濡れていないところに」
「わかりました、わかったから、ひゃ」
耳を舐められて力が抜ける。
目の前、す、と差し出された手の甲に顔を近づける。
あの時は、他に何も無かったから仕方なく
ううん、本当に、仕方なかったんだろうか?
だって今僕はこうして2回目を。
「・・・一回、だけです」
ドアの向こうを忍び足の少女が駆けていく。
気がつかないのは大人の人間ただ一人。
ひたひたと揺れる大きな湯船の中、
触れるだけの唇が一番熱かったのは、内緒の話。
fin
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