I say a little prayer

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「永遠に、共に生きていくと誓ったのですから」
幸せそうに、口元が笑った。
長話の締めくくりの一言、それからキスを最後に、その夜は開放された。
「では、3日後に」

星明りもない夜、カンテラ一つで歩きなれた道を下る。ほとんど無意識に歩ける小路に、足を進めながらシェラは視線を落とした。立ち止まってしまった足に、静かな風が吹き抜ける。

寡黙そうに見えて、ゼフォンは意外とよく喋る。
まだ日があるうちに話しかけてくるのは、畑の野菜の話だったり、子供たちのことだったり。
夜になって二人のときは、謳うような賛辞やからかいだったり。
それから、どこにいても、いつでも彼の中にある“あのひと”の話。
愛する人と死に別れたのだから仕方が無いと思っていた。神父のお勤めとして、伴侶を亡くした寡婦の話を聞くこともあるから、僕に話すのは自然な選択で。ゼフォンがこの先の命を歩むために必要な行為なのも、頭ではよくわかっているつもり。
けれど、繰り返す記憶の再生に付き合うのは、どうもイライラするらしかった。
そういう神父様のイライラ虫に気づくのは子ども達のほうが早くて、
「神父様、またゼフォンがやらかしたんですか!?」
と怒ってみたり、
「おでこ、うーっってなってる」
と言って泣きそうな顔をしてみたり、怖がってみたり。
今日は静かだな、と思ったら“返礼”の翌日だったり。
大人になって、コントロールもできない気持ちが嫌になる。
帰ったら、子供達にどんな顔されるかな。できるだけ心配をかけたくないのだけど。

彼の何がそう苛立ちを生むのか、ずっとよくわからないままにしてきた。だって僕は神様にお仕えする身なのだから、落ち着いた心でいなくては。
そう言い聞かせたこともあった。ぜんぜん効かなかった。

納得できれば変わるだろうかと思って、理由を探してみたりもする。
たとえば、
昔話が果てしなく続く気がして息苦しいけど、きっといつか終わる、とか。
それか、
彼はこの世界で話せる人が僕しか居ないから仕方がない、とか。
で、次に会った時にそんな考えが役に立たなくてがっかりするの繰り返し。
何をそんなにがっかりする必要があるのだろう。“僕”は彼のニーズさえ満たしていればいいだけの役割を与えられた人形なのに。

そうして立ち尽くし、冷えた身体に囁く考えが一つ。

だとしても、ゼフォンが僕を求めていないのは本当の事だから。
大きな氷の塊を飲んだように、動かない胸でシェラは息をした。

シェラの前でゼフォンは、喪ったものの事を話し続けてきた。そうする事で、“イシュリエル”に過去の記憶を縫い止めようとするように。
「僕は、シェラだって、言ったんだけどな」
ぱたぱたと、重い雫が落ちた。
ゼフォンの前で“あの人”のように振舞おうと、神様に生かされた自分の命を生きようと反応は同じだった。僕の中を“愛している”と、死者への伝言が通り抜ける。ただそれだけ。
その度に、繰り返し、そうしている自分はゼフォンにとって居ないも同然なのだと突きつけられる。
解りたくて黙って聞く自分も、孤独ではないと告げたくて触れる手も、全ては陽炎のよう。

ああそういえば、苦しいのなら全てを手放して委ねればいいと、ゼフォンも言ってた。
たくさんの事を諦めた唇が、苦い笑みを作る。

僕が生まれてこなければ。貴方に見つけられることなく、その前に命を断っていたなら。
一度目の生を受けず、ゼフォンに救われた二度目の生を受けず、こころが死んだままなら。
どこかで、自分である事を諦めていれば。
こんなに苦しい想いをすることはなかったのに。

それでも。
ふっ、と出てきた記憶に、瞬きが一つ。
あの日僕を助けたゼフォンが、「間に合ってよかった」と、心底安堵したように笑ったのを覚えている。

fin

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