How to make bathtime?

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「・・・・・・やれやれ」
一人キッチンに残され男は投げやりな溜息を吐く。
やめろ、か。
ちきしょう、か。
あるいは、そのままの意味か。
ゼフォン特有の「地獄に帰れ」を選択肢に入れて、彼は淡々と残りの作業を続けた。


とはいえ、やることはほとんど残っていない。型に流し込んで布を掛ける。それだけだ。
片付けを終えて手を洗った流しに泡が淀んだ。どうやら石鹸の出来は上々らしい。
淡く光る泡の反射に、先程見た瞳を思い出す。


天界に居た頃近々と交わしたまなざしに、よく似ていた。
身体も声も髪もあの頃とは全く違う。ただ、世界の光るもの全てを詰め込んだような瞳だけは、今も同じ色で光っている。
転生した魂は確かにイシュリエルのものだと知っているからこそ判る、あの瞳。
澄んだ瞳で言い渡された時、未だにかすかな希望を抱いている自分に気付いた。


――僕は、僕であることを、投げ出したりしません。神様に誓って。
その純真な心も、変わっていないらしい。
だが、

(冗談じゃない)
(2度も、奴の言いなりに生きようとしている?)
押さえきれない気迫に、小さな生き物が身じろぐのがわかった。
噛み砕くほど力を込めた歯がぎりりと音を出す。
(何故、拒絶する?)

奴が、あいつが何かしたのか。
違うだろう。
あいつは関係ない。
原因は自分にある。

裏切り者、信じられないと思われても仕方のないことだ。
実際そうなのだから。
目蓋を閉じればいくつもの記憶が頭の中を埋める。
神と人、永遠の約束。二人の楽園で起こったコト。そして裏切り。
イシュと自分とで誓った約束を破り、一人地獄へ赴いた自分。

やがて襲い来る、ひどく静かな別れの瞬間。
そうなってしまう前に、
一人勝手に堕ちた事を、あんな風に詰ってほしかったのだろうか。
壮絶な眼差しで刃を向け、二度と来るなと告げてほしかった?
別れを告げられていれば、諦められた?

それはありえない。
イシュリエルを失うなど、考えられない。
しかし現に彼の魂は今、自分を拒んでいる。
(冗談じゃない、これ以上遠くなるなどと)


ふ、と息を吐いて、薄暗い教会のキッチンに目を戻す。
全ては自分の所為だ。
薄い被膜で出来た泡は、とうに消えて水に混じっていた。

早く、“彼”を目覚めさせなくては。
言い聞かせるように呟いた。


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